○不動産登記の役割 

① 不動産取引と登記
 一般の方は不動産登記と聞いてもピンとこないのではないでしょうか。私自身、大学は法学部でしたが、不動産登記(法)について勉強した記憶は一切ありません(笑い)。しかし不動産取引や融資等の実務においては、不動産登記がないと大変なことになります。不動産登記がなければ不動産の取引や融資などが円滑に進まなくなるのです。
一般の方にとってはマンションや一戸建てを購入し、その際に融資を受けるなどということは一生に1度あるかないかのことだと思います。それ故、ほとんど方は不動産登記について考えたことがないのではないでしょうか。なぜ費用まで払って登記なんてする必要あるの? と常々お思いの方もいらっしゃるのは当然だと思います。
そこで、実際の取引において不動産登記がどんな役割を果たしているのか、中古マンションの売買の例を下記モデル図に従って説明したいと思います。


   甲さんへの住宅購入資金融資銀行B① 

     甲さんへの住宅購入資金融資銀行B②                   乙さんへの住宅購入資金融資銀行B③

                        ↓                      ↓ ビル

                     売主 甲 →  中古マンション→ 買主① 乙   

 

                                 → 買主② 丙


□甲さんは、20年ほど前、B①から住宅購入資金の融資を受けマンションを購入しました。しかし家族が増え、マンションが手狭になり、乙さんにマンションを売り、新たに広いマンションを購入することになりました。
この場合、買主たる乙さんからみれば売主甲さんが本当にマンションの所有者なのかは気になるところです。仲介の不動産業者が間に入れば当然調べることではありますが、個人間で売買などする場合はどうするでしょうか?この場合は法務局(いわゆる登記所)に行って、不動産登記簿という不動産についてのデータを記した公の帳簿をみて不動産の所有者が誰であるかを確認することになります。この公の帳簿(不動産登記簿)は誰でもみることができます。登記簿を確認して所有者が甲さんであることを確認し、安心して乙さんは甲さんと売買契約を結べることになるのです。

□さて、甲さんはあろうことか二重に利益を得ようとして乙さんの他に丙さんにも同じマンションを売ってしまいました。いわゆる二重譲渡ですね。刑法上も問題になりますが、ここでは登記との関連でどちらが自分が所有者だと主張できるか?ということを考えてみましょう。この場合、仮に乙さんが先に甲さんと売買契約を締結したとしても、丙さんもその後、売買契約を締結し、先に所有権移転の登記をして不動産登記簿に所有者として記載されれば、乙さんは自分が所有者だと主張できないことになります。逆に丙さんは乙さんのみならず、誰にでも自分が所有者だと主張できることになります。(ちょっと難しい言い方をすると不動産登記の対抗力というものです⇒例外もあります。例外はMEMOを参照して下さい。)このようなことが起きないようにするためにも、乙さんは自己を所有者とするための所有権移転登記を丙さんより先に確実に行い、自己の所有権を世間一般に主張できる状態にする必要があるのです。

□B①は甲さんが当然住宅ローンを返済してくれるものとして融資しました。しかし、このご時世なにが起こるかわかりません。甲さんが突然リストラされるということも十分ありうる時代です。そこでB①としては甲さんのマンションに抵当権(いわゆる担保権です)を設定し抵当権設定登記をしたのです。つまり甲さんのマンションを担保にして融資をしたということです。この抵当権は、甲さんが住宅ローンの返済ができなくなった場合に他の甲さんの債権者に先立ってこのマンションの競売代金から優先的に返済(弁済)を受けることができるという権利です。B①が1番最初に抵当権設定登記をすれば2番目に抵当権設定登記した金融機関B②よりも優先して返済(弁済)を受けることができます。仮にB①がB②よりも先に抵当権設定契約を結んだとしても、その登記がB②より後に(後の順番で)なされたときはB①はB②に劣後することになり、返済を受けることのできる額もB②より少ない額になってしまいます。つまり登記をした順番により返済(弁済)を受ける額が変わってくるのです。(ちょっと難しい言い方をすると登記の順位保全効というものです。)B①にとっては融資をするにあたり第1順位で抵当権設定登記をするということはとても重要なことなのです。(当然、例外も多々ありますが、このモデル図の例については原則論、一般論で話を進めています) 

□上図でいうと、買主①乙さんに融資する金融機関B③が抵当権設定登記する場合も全く同じことがあてはまります。金融機関B③もやはり第1順位で登記をするということになります。

 

② 不動産登記の意義と必要性
上記の例でもわかるように不動産登記というシステムは、不動産登記簿という国が作成する公の帳簿で、その権利関係を公示することにより、不動産取引の安全性や、不動産に関する権利関係の安定化に非常に重要な役割を果たしているのです。

 

MEMO

登記がなければ対抗できない第三者の例外(つまり自己に登記がなくても権利を主張できる第三者)
・ 詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた第三者
・ 他人のために登記申請義務を負う者(EX 司法書士が、書類が自分の手元にあることをいいことに自分を買主として登記をするような場合の司法書士のことです)
・ 無権利者及びその承継人(書類を偽造して他人の不動産を自己名義に登記した人は、仮に自己名義の登記を有していても、真の所有者には権利を主張できないということです)
・ 不法行為者(上記の例でいうと例えば、乙さんは売買契約を結び代金も払いましたが、まだ登記をしておらず登記簿上名義人でない状態にあったとします。しかし売買の目的物である家を破壊した丁に対しては所有者としての権利を主張できるということです)
・ 不法占拠者(上記の例でいうと例えば、乙さんは売買契約を結び代金も払いましたが、まだ登記をしておらず登記簿上名義人でない状態にあったとします。しかし売買の目的物である家を不法に占拠している丁に対しては所有者としての権利を主張できるということです)
・ 背信的悪意者(上記の例でいうと買主②丙が買主①乙さんの存在を知っており、かつ買主②丙の権利主張が正義(信義)に反するような場合です⇒例えば、その家がどうしても欲しい乙さんの事情、そして甲さん乙さんの売買契約締結の事実を知っているのに、甲さんをそそのかし、甲さんからその家を取得しその取得価格の数倍の価格で、乙さんにその家を売りつけようとした場合などです)
※ 他にも例はありますがここでは主なものをあげています

 

③決済における司法書士の役割

□決済は関係当事者が各自の目的を達成するため、ある場所に集まり、実体法上の関係・融資手続きの関係・登記手続上の関係という相互に関連し結びつく関係を、再度新たに構築するという場面です。わかりやすく言えば、決済日における融資の実行により各関係当事者の立場・関係性が劇的に変化し、新たな関係がスタートするということです。

□例えば、甲は売買契約の売主であり、所有権移転の登記義務者であり、住宅購入の際に受けた融資金の債務者であり決済時にはその債務の返済者であり、抵当権(担保権)抹消登記においては登記権利者となります。乙は売買契約の買主であり、所有権移転の登記の登記権利者であり、今回の住宅購入時に融資をうけた債務者であり、かつ抵当権(担保権)設定登記の登記義務者です。つまり、B①、甲、乙、B②は互いに結びつき補い合うという複合的な関係にあるのです。
(下記モデル図参照)

□司法書士は各関係当事者の諸々の債務の履行の場面ということで、利益が相反する当事者の双方についての代理が可能となり、各当事者について、本人確認、意思確認、目的不動産の確認等諸確認を行い、問題がなければ、融資銀行(下記図B②)に融資が可能である旨を伝えます。これがいわゆる融資の実行です。

□通常はこの決済日にB②⇒乙⇒甲⇒B①とお金が動き、それに伴い、抵当権の消滅(抹消)、所有権移転、抵当権設定という権利変動が生じます。
・甲の返済によりB①は抵当権者(担保権者)ではなくなります⇒抵当権抹消登記
・所有者は甲から乙へ変わります⇒所有権移転登記
・乙がB②から新たに住宅購入の為の融資を受けるので、B②が抵当権者(担保権者)となり乙が債務者となります⇒抵当権設定登記

               B①                 B②
                ↓       マンション    ↓

               甲  →         →  乙 ビル


□決済においでになる一般のお客様は、決済当日における司法書士の役割について考えたことがないと思います。しかし、司法書士は双方代理により、対立関係にある各当事者の本人確認・意思確認等を一手に引き受け、時には数億円もの融資金実行にOKを出すのです。当然、職責としてひとつのミスも許されません。すごく責任重大な仕事なのです。


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