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□遺留分②
本項においては遺留分減殺請求権の行使以降の一般的な流れ等を説明します。
○遺留分減殺請求権の行使
遺留分を侵害する、遺贈・贈与がある場合、遺留分に基づき遺留分を侵害する限度において遺留分減殺請求権を行使できます。裁判上行使する必要はないので、通常は配達証明付き内容証明郵便等を利用して遺留分減殺権行使の旨を相手方に伝えます。
○遺留分減殺請求権の行使の順序
遺留分減殺請求権行使の対象となる遺贈・贈与が複数ある場合には、まず遺贈、そして相続開始に近い贈与の順で遺留分減殺請求権を行使します。
この場合、遺贈への遺留分減殺請求権の行使で遺留分侵害の状態がなくなれば、贈与については、遺留分減殺請求権の行使はできないことになります。
○相続開始前に遺留分減殺請求権の行使はできるのか?
遺留分減殺請求権は相続の開始後に発生する権利なので、遺留分減殺請求権の行使は相続開始後ということになります。言い方を変えれば、相続開始前には遺留分減殺請求権の行使はできないということです。
○遺留分減殺請求権の行使できる期間(民法1042条)
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年内に行使しないと時効消滅します。相続開始の時から10年経過した時も同様です。
※この規定があることは意外と知られていませんのでご注意ください。
○遺留分の放棄について
遺留分減殺請求権の行使は相続開始後に限りできる旨を説明しましたが、遺留分の放棄については相続の開始前でも可能です。ただし、相続開始前に遺留分の放棄をするには家庭裁判所の許可が必要です。被相続人などが相続人に圧力をかけ放棄を強要するなど、遺留分の理念に反する行為を防ぐために家庭裁判所の許可が必要となっています。これに対し、相続開始後であれば家庭裁判所の許可は不要です。
○遺留分減殺請求権行使の効果
遺留分を侵害した遺贈・贈与がある場合、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すると、遺留分権を侵害する範囲で遺贈・贈与の効果が失われます。これにより遺留分権利者は遺贈・贈与の目的となっている動産・不動産等につき返還請求ができることになります。
○価額による弁償の抗弁
遺留分を侵害する遺贈・贈与が動産や不動産の遺贈・贈与である場合、受遺者・受贈者(遺留分権侵害者)は価額弁償の抗弁が出来ます。この場合は、動産や不動産の価額に応じたお金を払えば、動産や不動産そのものを遺留分権利者に返還しなくてもよいことになります。
○遺留分減殺請求権行使の場面における具体的な流れ
相続関係、遺留分、遺産の内容・価額、当事者適格(本当に遺留分権利者・遺留分権侵害者か)、遺留分の具体的侵害額等を調査・確認し、遺留分権利者と遺留分権侵害者の話し合いで、食い違いがある部分等を具体的に詰めていきます。
⇒話合いで、合意にいたれば、通常、合意書・和解書等を作成します。
当事者のみによる合意書・和解書等の作成では不安だという場合には、公証役場等に合意書・和解書の作成を頼むこともできます。
⇒一般的には、その後、金銭の授受等を経て、互いに債権債務がない状態となって諸般の手続きは終了ということになります。
○当事者の話合いでは合意・和解等ができなかった場合
通常は、家庭裁判所に調停を申立てます。この調停が整わず、最終的な判断を求める場合、今度は、家庭裁判所ではなく、訴額に応じて簡易裁判所か地方裁判所に訴えを提起することになります。
○遺留分減殺請求に関する登記について
遺留分を侵害する遺贈・贈与が不動産の遺贈・贈与である場合、受遺者・受贈者(遺留分権侵害者)は価額弁償の抗弁が出来る旨を説明しましたが、当然、遺贈・贈与の目的物である不動産自体を遺留分権利者に返還することもできます。この場合の登記手続きに関して簡単に説明します。
被相続人が不動産を遺贈・贈与し、遺贈・贈与を原因として受遺者・受贈者名義にすでに登記が入っている場合は、その登記を抹消せず、遺留分権利者を権利者、すでに登記簿上名義人となっている受遺者・受贈者を義務者として「年月日遺留分減殺」を原因とする権利移転の登記をします。これは通常の「相続」を原因とする登記と異なり、遺留分権利者と受遺者・受贈者の共同申請による登記となります。
※「年月日遺留分減殺」の原因日付は遺留分減殺請求の意思表示が相手に到達した日です。
※登録免許税の税率は相続に準じて4/1000です。
これに対し、遺留分を侵害する遺贈・贈与がされたとしても、まだ受遺者・受贈者名義に登記が入っていない場合は、被相続人から相続人へ通常の「相続」を原因とする移転登記をします。
○まとめ
一口に遺留分といってもいろんな論点や判例があります。今回は、基本的・一般的なことを説明しました。「自分には関係ないかな」とお思いの方でも、「遺留分を侵害する遺贈・贈与はないか?」あるいは「自分が受けた遺贈・贈与は、遺留分を侵害していないか?」などと考えてみることは、自己の財産の保全・管理・処分という観点からみても有益なことだと思います。ぜひご参考にしてみて下さい。
※平成30年相続法改正により、遺留分についても改正がありました。改正の概要は「相続法の改正」の項をご確認下さい。
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