配偶者居住権の登記

配偶者居住権の登記

 

配偶者短期居住権は登記ができませんが、配偶者居住権(配偶者長期居住権)は登記ができます。本項では配偶者居住権(配偶者長期居住権)の登記に関する事を中心に、具体的事例を用いて説明を進めていきます。

配偶者居住権(配偶者長期居住権)配偶者短期居住権の権利の内容、新法の施行期日などについては、本項とは別に項目を設け、そこで詳細な説明をしています。お時間のある方は、そちらもご確認下さい。

 

 

○事例

2020年5月1日にAは自筆証書遺言書を作成しました。Aはその後、6月1日に死亡しました。Aの遺言書には不備もなく検認もすませました。遺言書には「遺産であるA名義の土地及び家屋を一人息子のCに相続させる。A名義の家屋(居住建物)について、同居している配偶者のBに配偶者居住権を遺贈する」との記載がありました。

 

※遺贈⇒遺言による贈与

 

 

本事例の場合にどのような登記をすべきか説明していきます。

 

     亡A==B(亡Aと同居していた配偶者)

 

         C     Z(善意の第三者)

      (一人息子)

 

まず配偶者居住権の登記をする前提として、亡A名義の家屋について、亡AからCへ相続を原因とする所有権移転の登記をします。通常は同一の申請書で土地についても、亡AからCへ所有権移転登記をします。この登記により土地と家屋はCの名義になります。この登記は、いわゆる相続登記で、Cの単独申請です。検認済の遺言書、戸籍等を添付して登記します。

 

この相続登記の後に、Bと家屋の名義人となったCが、家屋(居住建物)について、共同で配偶者居住権設定の登記を申請します。配偶者居住権は家屋に登記をします。土地には配偶者居住権に関する登記はできません。登記義務者であるCは、民法1031条1項等により、Bために配偶者居住権設定登記をする義務があります。

 

 

○登記の必要性(登記の対抗力と善意の第三者について)

 

この事例で、こともあろうに、Cが自己を名義人とする相続登記をした後、Bの為に配偶者居住権設定の登記をしないで、善意の第三者Z(遺言書の内容や配偶者居住権の存在について全く事情を知らない第三者)に家屋を譲渡し、CからZへ、家屋の所有権移転登記もしてしまいました。この場合、いわゆる登記の対抗力により、Bは配偶者居住権をZに主張できません。逆にZは家屋の所有権をBに主張することができるので、Bに対し「家から出て行ってください」と言える状況になります。

 

このような状況になることを防ぐためにも、Bは早めに配偶者居住権の登記をして、登記の対抗力を得る必要があります。登記義務者であるCが配偶者居住権の登記に全く協力しない場合には、裁判を起こして確定判決等をもらい、Bは単独で判決による登記をすることになります。

 

 

※判決による登記→登記手続きを命じる確定の給付判決等により、権利者が単独で登記申請できる。給付判決に準じる和解、調停、請求の認諾等によっても、権利者は単独で登記申請できる。

 

※登記の対抗力等については、不動登記の項で詳細に説明していますので、興味のある方はそちらの項もお読みください。

 

 

○配偶者短期居住権の問題点

 

前述の通り、配偶者短期居住権は登記ができません。それ故、善意の第三者に対して対抗力を有する為の手段がないと言えます。前記のZのような善意の第三者が登場した場合には、B はZに対して自己の権利を主張することが困難になると思われます。(BはCに対しては、民法1037条2項等の規定に違反したということで、債務不履行等の責任追及は可能です)。善意の第三者の出現により、住み慣れた住居を出ていくような状況になる可能性は、配偶者短期居住権のほうが高いかもしれません。配偶者短期居住権についても、対抗力をBに付与するための何らかの方法を考えるべきでしょう。

 

 

○前記の事例でB、Cがやるべき登記申請の具体例(善意の第三者Zは登場せず、かつ、登記を司法書士に依頼した場合の申請書等)

 

1/2 ⇒2連件の1件目の申請の意味

 

登記の目的     所有権移転

原    因    令和2年6月1日相続

相  続  人    (被相続人 A)

         ○県○市 C

 

添 付 書類※1 登記原因証明情報   住所証明書   代理権証証書

 

 

令和2年7月1日申請  ○法務局

 

代 理 人    ○県○市 

         司法書士 司法五郎

         連絡先 00−0000−0000

 

課税 価格   (土地及び建物の評価額を足した額)

 

登録免許税    (土地及び建物の評価額を足した額×4/1000

 

不動産の表示   (不動産の表示を記載⇒土地と建物の所在、地番、家屋番号などを

登記簿に即して記載する)

 

 

※1添付書類  本事例の場合⇒遺言書(検認済証付) 亡Aの戸籍・住民票除票  

        Cの戸籍・住民票  Cから司法書士への委任状  固定資産評価証明書

 

 

 

2/2  ⇒2連件の2件目の申請の意味

 

登記の目的        配偶者居住権設定

原   因※1     令和2年6月1日遺贈

存続 期間※2     配偶者居住者の死亡時まで

特   約※3     第三者に居住建物の使用または収益をさせることができる

権利者(配偶者居住権者)   ○県○市 B

     義務者(設定者)  ○県○市 C

 

添付 書類※4  登記原因証明情報  登記識別情報  印鑑証明書  代理権証証書

 

令和2年7月1日申請  ○法務局

 

代 理 人    ○県○市 

         司法書士 司法五郎

         連絡先 00−0000−0000

 

課税価格    (居住建物の評価額)

 

登録免許税     (居住建物の評価額×2/1000

 

不動産の表示  (居住建物の不動産の表示を記載)

 

※1・遺贈の場合は「令和〇年○月○日遺贈」⇒遺言が効力生じた日(普通は遺言者の死亡日) 

  ・遺産分割の場合は「令和〇年○月○日遺産分割」⇒遺産分割協議が成立した日等 

  ・死因贈与の場合は「令和〇年○月○日贈与」⇒死因贈与契約締結の日。「死因贈与」とはしない。あくまで原因は「贈与」と記載する

 

※2 存続期間は、「令和〇年○月○日から何年、または、配偶者居住権者の死亡時までのうち、いずれか短い期間」などのように、より、細かく具体的に定めることも可能。相続人の状況に最も適した定め方をして、それを登記する。

※3  定めた場合には特約として登記する。

 

※4  遺言書  A(B)の戸籍  Bの住民票   

    Cの登記識別情報及び印鑑証明書(作成3ヵ月内) 

    BとCから司法書士への委任状  固定資産評価証明書

※4   遺産分割協議で配偶者居住権を定めた時は遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書

※4   死因贈与の場合は死因贈与契約書

 

○遺言書作成日、死因贈与契約締結日、遺産分割協議成立日の各日付には注意して下さい。配偶者居住権に関する法律の施行期日との関係で、法律の適用範囲外となる場合があります。配偶者居住権の施行期日の項に詳細な記載がありますのでご確認下さい。

 

 

○まだ施行されたばかりの法律ですので、一般の方がご自分で登記申請する場合は、事前に申請する法務局に相談したほうがよいでしょう。

 

 

 

○配偶者居住権の抹消登記について

 

下記の場合のように配偶者居住権が消滅した場合は、配偶者居住権の抹消登記ができます。

 

・建物の全部滅失等により建物の使用収益ができなくなった場合⇒建物の全部の滅失、あるいは、その他の事由により使用収益ができなくなった場合には、配偶者居住権は消滅します(民法1036条、民法616条の2)。

 

・配偶者の死亡または期間満了⇒配偶者居住権に存続期間の定めがあったとしても、配偶者が死亡した場合は、存続期間の満了を待たずに配偶者居住権は消滅します(民法第1030条、民法第1036条、民法597条1項、3項)。配偶者居住権は配偶者の一身専属権なので、相続人に承継されず消滅することになります。この場合には、居住建物の所有者(登記権利者)は単独で配偶者居住権の抹消登記を申請することができます(不動産登記法第69条)。存続期間が満了した場合も、更新はできませんので、配偶者居住権は消滅します。

 

・建物所有者が消滅請求をした場合⇒居住配偶者が善管注意義務の規定等に違反した場合は、建物所有者は配偶者居住権を一方的に消滅させることができます(民法第1032条)。

※善管注意義務⇒「善良な管理者の払うべき注意義務」の略。自己の所有物を管理する場合よりも、より重い管理注意義務が求められる。

 

・配偶者が建物の所有権を取得した時⇒配偶者が建物全部の所有権を取得すると、配偶者居住権は混同により消滅します(民法第1028条2項、民法第179条1項)。この場合、建物は配偶者の所有となるので、配偶者居住権を認める意味がなくなるからです。

※混同(民法第179条1項)⇒同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない  

 

 

まとめ

 

以上の説明でもわかる通り、配偶者居住権者(配偶者長期居住権者)は、早めに配偶者居住権の登記をするべきです。配偶者居住権に関する規定の施行期日は、つい最近の、令和2年4月1日です。まだ実務の運用について不確定な部分もあるかと思います。一般の方がご自分で登記をする場合は、事前に法務局に相談した方が良いでしょう。また、仕事などで忙しくて、ご本人で登記ができないような場合は、登記の専門家、司法書士に依頼をした方が良いと思います。

 

当事務所は相続に関する登記に強い司法書士事務所です。お気軽にお問い合わせ、ご相談下さい。

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