今回のブログは相続放棄についての注意すべき事例についてです。
※本ブログ記載の事例は、あくまで、勘違い、法律的知識の不足等で予期せぬ相続関係が生じてしまった事例です。熟慮の上、相続関係の変化も考慮したう上で相続放棄をした事例ではありません。それを踏まえてお読み下さい。
事例)
夫が亡くなり、妻(配偶者)と子供2人が本来的な相続人とします。この場合に妻(配偶者)のみを相続人とするため、子供2人が相続放棄しました。相続人3人で遺産分割協議をするよりも、子供2人が相続放棄をして、母のみを相続人とした方が相続手続きを楽に進められると考えたからです。
しかし、ここに重大な落とし穴があるのです。子供2人が相続放棄すると相続人は配偶者だけではなく、亡夫の父母が生きている場合には亡夫の父母(直系尊属)、亡夫の父母が既に亡くなっている場合には亡夫の兄弟姉妹、亡夫の兄弟姉妹が亡夫より前に亡くなっている場合は亡兄弟姉妹の子供(甥・姪)が相続人(代襲相続人)になるのです(※1・2・3)。
つまり場合によっては、妻(配偶者)と亡夫の兄弟姉妹・甥・姪が相続人となり、相続人が多数になることも十分あり得るのです。
※1. 民法第890条(配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
※2.前記事例で、配偶者が相続放棄した場合は、子供のみが相続人となり、直系尊属や兄弟姉妹は相続人になりません。
※3. 前記の事例で、仮に亡夫の父・母(直系尊属)がご存命の場合は、兄弟姉妹ではなく、亡夫の父・母(直系尊属)が生存配偶者とともに相続人になりますが、日本人の平均的な死亡年齢を考えると亡夫の兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる事例が多いと思われます。
こうなると結構大変なことになります。手続きを簡単にしようとして行った相続放棄が、逆に相当に面倒なことを招いてしまうのです。
例えば、子供全員の相続放棄により配偶者と亡夫の兄弟姉妹・甥・姪が相続人になる場合において、配偶者が夫の遺産を全て相続しようとすると、その相続人全員が遺産分割協議をして、配偶者に遺産を相続させる旨の相続人全員の合意が必要になります。相続人となった夫の兄弟姉妹や甥・姪が協議内容に納得しなければ、遺産分割協議がまとまらなくなる可能性もあります(※4)。
※4. 兄弟姉妹や甥・姪が相続人の場合、遺留分はないですが、当然、基本的には法定相続分があります。
この事例にように良かれと思ってした相続放棄により、兄弟姉妹、甥・姪が相続人となる事案は少ないとは思いますが、意外とありえることなので注意が必要です。
とにかく配偶者と子供が相続人の場合において、子供全員が相続放棄する場合には、相続放棄した場合に他に相続人となる者がいないか必ずチェックしてください。
もし、相続放棄申述書を家庭裁判所に提出した後に、兄弟姉妹、甥・姪が相続人になることに気づいた場合には、すぐ相続放棄申述書を提出した家庭裁判所に連絡しましょう。そしてすぐ相続放棄の取下げの手続きをしてください(※5)。
※5.相続放棄の申述が受理される前までは取下げができますが、相続放棄の申述が受理された後は取下げができません。よって自分が意図した相続関係と異なる相続関係が生じることに気づいた場合には、受理される前に家庭裁判所にすぐ連絡しましょう。
相続放棄は期間制限があるので、あわてがちですが、相続放棄した場合の相続関係の確認や遺産調査も踏まえ慎重に行うべき手続きです。本当に注意してください。
※当ホームページには相続順位や相続放棄に関する、相続が開始したら、相続と相続放棄(熟慮期間について)、相続放棄をした場合の相続登記の添付書面、相続放棄をする場合の民法第940条の管理責任についての項があります。興味のある方は、ぜひ、そちらもお読み下さい。