前回のブログでは、相続開始前に相続放棄、遺留分の放棄ができるかについて書きましたが、今回は相続開始前に遺産分割協議ができるか否かについて簡単に書きたいと思います。相続放棄や遺留分放棄と遺産分割協議はその性質が違うので、別々のブログにしました。
相続放棄や遺留分の放棄と遺産分割協議が大きく異なるのは、相続放棄や遺留分放棄は単独でする行為で、遺産分割協議は合意に向けて複数の相続人間で行われる行為ということです。
結論から言うと、遺産分割協議は被相続人の生前にはできません。ある人の相続が開始して、その相続開始時(死亡時)で遺産が確定する事と相続開始時の相続人が遺産分割協議の当事者となるので、相続が開始する前にその協議の前提となる要素が確定していないからです。仮に被相続人の生前に遺産分割協議をしても有効なものでありません。
しかしながら遺産分割協議が相続人間における合意を目指すことを目的としている性質上、将来の遺産分割協議に向けて、相続開始前において推定相続人間(※)で話合いをする事は決して無駄だとは思いません。例えば高齢の方が重篤な病気にかかっており、近い将来相続が開始する可能性が高いような場合には、将来の相続に向けて話合いをする事は法律的には遺産分割協議ではないというだけで有益なことだと思います。
相続人が複数いる場合には、基本的に遺産分割協議の合意が成立しないと相続の手続きを進めることができません。相続開始前でも早めに推定相続人同士がどのような考えを持っているのか、意志を疎通させておく事は決して悪いことではないと思います。
他の項でも述べていますが、遺産分割協議は自己の主張ばかりしていると、まとまるものもまとまりません。遺産分割協議が合意に至らないと色々と面倒なことが生じる可能性が高くなります。親族間の関係が悪くなったり、訴訟費用等無駄な出費が増えたりというようなこともありえます。相続開始前の推定相続人間の話合いにおいても同様のことが言えます。相手の主張や意見にも耳を傾ける姿勢が大切です。
また、相続開始前の相続人間の話合いにおいては前記したように、「相続が開始した時点で遺産及び相続人が確定する」ということは話合いの前提として頭の中に入れておくべきでしょう。
※推定相続人⇒ある人が亡くなった場合に相続人になる人
※相続開始後の遺産分割協議においては、2025-05-07のブログに記載の通り、相続開始から遺産分割協議が整わず10年を経過すると、寄与分等の主張が原則できなくなり、一般的には法定相続分として相続関係が処理されることになります。この期間制限にも注意が必要です。